投稿日:2016年3月17日|カテゴリ:院長コラム

私が以前所属していた慶應義塾大学医学部救急医学教室の教授である堀進悟先生の最終講義が、2016年3月16日に信濃町キャンパスで行われました。

タイトルは「ER (emergency room) から学んだこと」です。

堀先生は、日本で本格的に北米型のER型救急医療体制を進め、先駆的な役割を果たされました。ER型救急は、軽症から重症まですべての救急患者に対応する医療体制のことで、病院と社会との接点として重要な役割を担っています。Joey Havlockの “A Room with No Walls” という絵を呈示し、社会と隔てる壁をなくすことの重要性を強調されました。

次に、1995年3月20日に発生したサリン事件について話しをされました。その時、慶應義塾大学病院は約120人の傷病者の医療対応にあたりました。多くの患者さんに対応する能力 “surge capacity” が集団災害時には求められ、ERが診療の中心的な存在になったことを説明されました。警視庁が原因物質をサリンと発表するよりも早期に、特異的拮抗薬である、PAM (pralidoxime methiodide) やアトロピンを投与し、救命することができました。この事件が発生する前に、同院を救急受診したVXガスに曝露された患者さんの診療にあたった経験から、素早い対応を取ることができ、症例から学ぶことの大切さを再認識させていただきました。

堀先生の専門分野は、失神と入浴事故です。失神は、①くず折れ型、②転倒型、③座位型、の3つのタイプに分けられます。特に転倒型は心臓が原因である心原性が多く、約30%に外傷を伴うため十分な注意が必要です。座位型(座った状態で失神するタイプ)では、座位のままで、血圧が低い状態が持続すると重篤化し、心肺停止に至る危険があります。次に入浴事故についてです。入浴事故は日本特有のもので、熱中症と同じの機序によって意識障害に至り、浴槽内に溺没し、入浴中に急死してしまうメカニズムを明らかにされました。多くの救急搬送患者さんのデータを解析した結果、高齢者の長時間入浴、外気温が低い冬場にお湯の温度が40℃以上であることが危険であることが判明し、これらの点に注意すれば、予防可能であることを説明されました。

講義の締めの言葉として、ERが地域社会と病院の接点となって、セーフティネットになることが、救急医学教室の責務であると話しをされました。

私に対しても非常に熱心に指導して頂き、感謝の念に堪えません。救急医学教室に所属したことにより、医師として成長することができ、大きな財産となっています。

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