投稿日:2015年10月4日|カテゴリ:医学情報

多発性嚢胞腎~薬物治療の可能性~   第45回日本腎臓学会東部学術大会

演者:日高寿美先生(湘南鎌倉総合病院腎臓病総合医療センター腎免疫血管内科)

 

<疫学>

・日本における推定患者数 約31000人 (Nephron 80: 421, 1998)

・透析導入の原疾患として、2.5%(わが国の慢性透析療法の現況2013年)

・導入時の平均年齢は、糖尿病性腎症で66.84歳、慢性糸球体腎炎で68.50歳、腎硬化症の平均年齢は74.59歳で、多発性嚢胞腎は62.33歳、と他の疾患と比べると比較的若年で導入されている。(わが国の慢性透析療法の現況2013年)

 

<臨床的特徴>

ADPKD臨床的特徴

(多発性嚢胞腎診療指針2010年)

 

<腎容積測定方法>

腎容積とeGFRは逆相関する。

基本的にはMRIまたはCTによるvolumetric法により測定。

Volumetric法が使えない時は以下の計算式を用いる。

体積 V=4πa b c /3(楕円体の主軸の長さが 2a、2b、2c)

 

<CRISP研究>

米国の CRISP(the Consortium for Radiologic Imaging Studies of Polycystic Kidney Disease)研究の一環として行われた研究で,15-46 歳の尿毒症のない多発性嚢胞腎 232 例に対して、MRIによる腎容積の測定が行われた。ベースラインの平均両腎容積は 1,060±642 mL(正常両腎容積:男性 404mL,女性 308mL)であった。3 年間観察された患者においては,腎容積は 204±246 mL/年(5.27±3.92%/年の割合)で増加(214 例), 嚢胞容積は 218±263mL/年で増加(210 例)していた。年齢にかかわらず,ベースラインの腎容積がその後の容量増加の予測因子となった。両腎容積 1,500 mL 以上の患者(51 例)においては,容積は腎機能の低下との相関を示した(4.33±8.07 mL/年)。

 

<多発性嚢胞腎における腎機能低下に影響する危険因子>

①PKD1遺伝子変異

②高血圧

③尿異常

④男性

⑤腎大きさ・増大速度

⑥左室肥大

⑦蛋白尿

⑧尿中・血漿copeptin濃度

※Copeptinは,等量のvasopressin(AVP)から生成されるペプチドである。39個のアミノ酸から構成。血清、血漿中のcopeptinは非常に安定性が高く,測定が容易。AVPを間接的に測定するのに有用。

 

<薬物治療>

・バゾプレシンV2受容体拮抗薬 … トルバプタン

 後述

・ソマトスタチン … オクトレオチド

 多発性肝嚢胞、多発性腎嚢胞に対する、オクトレオチドとプラセボとの比較試験(JASN 21: 1052, 2010)

 オクトレオチドを1年間投与したところ、肝臓容積を低下(オクトレオチド-4.95% vsプラセボ+0.92%)させ、腎臓容積増大を抑制(オクトレオチド+0.25% vs プラセボ+8.61%)したが、eGFRは両群間で差なし。

・mTOR阻害薬… シロリムス、エベロリムス

 mTORを阻害することにより、嚢胞溶液分泌を抑えないが、細胞増殖は抑制して、嚢胞増大を抑える。

 

<トルバプタン>

・TEMPO3:4試験:世界15カ国1,445名の多発性嚢胞腎患者さんを対象に3年間にわたりトルバプタンあるいはプラセボが投与された国際共同試験

 主要評価項目である両腎容積の変化率(年率)は、

 プラセボ群+5.51% vs トルバプタン投与群+2.80%

 →腎臓容積増加率を49.2%抑制

  (NEJM 367: 2407, 2012)

 TEMPO試験の解析により、トルバプタンは末期腎不全に至るまでの期間を6.5年、生命予後を2.6年延ばした。(Ann Intern Med 159: 382, 2013)

・副作用

 肝機能検査値の上昇→投与3か月以降から14か月の間に起こる、中止すれば改善

 高ナトリウム血症

・トルバプタン短期投与の影響

 一過性に腎容積減少(おそらく嚢胞液流入抑制による)

 GFRは可逆性に軽度低下

・課題

 ①いつ治療を開始するか。

 ②有効性をどう評価するか。

 ③いつ治療を終了するか。

 ④腎機能低下症例での有効性はどうか。

 ⑤投与量をどう決めたらいいか。